そもそもの大前提として、冒頭でも触れたとおりファクタリング自体に違法性はまったくありません。
まず、どういった法的な背景で違法性がないのかを解説します。
※「ファクタリングとは何か?」の基礎知識がまだない方は、先に「ファクタリングサービスとは?意味や仕組みを図解でわかりやすく解説!」の記事からお読みいただくと、理解しやすいかと思います。
1-1. 売掛債権は譲渡できる(債権法/民法第466条)
ファクタリングを行うときには、ファクタリング会社との間で、「ファクタリング契約」を締結します。
“ファクタリング契約”と呼ばれる契約の中身は、売掛債権(売掛金)を売却する「債権譲渡契約」です。
ここでまず疑問となるのが、「売掛債権を第三者へ譲渡することに、法的な問題はないのか?」という点です。
結論からいえば、問題ありません。
売掛債権を含む債権は、債権法(民法の契約などに関する部分)の民法第466条に、
「債権は、譲り渡すことができる」と明記されています。
第四節債権の譲渡(債権の譲渡性)
第四百六十六条債権は、譲り渡すことができる。
ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
ファクタリング会社に売掛債権を譲渡することは、合法です。
1-2. 権利譲渡禁止の特約がついていても譲渡できる(2020年4月改正)
次に論点となりやすいのが、
「売掛先との契約書に『権利譲渡禁止の特約』がついていても、売掛債権を譲渡できるのか?」という点です。
たとえば、売掛先との契約書に、以下のような条項が記載されているケースがあります。
▼ 譲渡禁止特約の文例
第○条(権利義務の譲渡禁止)
甲及び乙は、相手方の事前の書面による同意なくして、本契約から生じた権利義務の全部または一部を第三者に譲渡し、もしくは担保に供し、または引き受けさせてはならない。
このような譲渡禁止の特約がついていても、売掛先の同意がなくても売掛債権を譲渡することはできます。
1-2-1.2020年4月施行の債権法改正で変わった
じつは、譲渡禁止の特約があっても同意なしに売掛債権を譲渡できるようになったのは、2020年4月に債権法が改正されてからです。
改正前には「当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない」という一文がありました。
▼ 改正前の条文
第四百六十六条
債権は、譲り渡すことができる。
ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。
ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
2020年4月施行の条文では「債権譲渡の禁止や制限の意思表示をしても、債権譲渡の効力を妨げられない」という内容に変更されています。
▼ 改正後の条文(2017年5月成立・2020年4月施行)
第四百六十六条債権は、譲り渡すことができる。
ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。
)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
1-2-2.円滑な資金調達を実現するための法改正
前述の法改正の背景を、経済産業省の資料からご紹介しましょう。
以下をお読みいただくと、ファクタリングは違法どころか、中小企業がファクタリングを活用しやすくするために法改正した面もあることが、おわかりいただけるかと思います。
▼ 法改正の背景
「債権譲渡」は、弁済期前に債権を売り渡して代金を得ることや、債権を担保に供し融資を受けることなどを目的とし、中小企業の資金調達のために行われることがあります。
しかし、改正前の民法の下では、債権者と債務者との間の契約に「譲渡制限特約」を付すことで債権譲渡を無効とすることができたため、債権者(中小企業等)の円滑な資金調達を妨げているという声がありました。
今回の改正は、このような実情に対応したものとなっております。
この改正により、企業の皆様にとっては、債権を活用した資金調達が行いやすくなるというメリットがあります。
出典:経済産業省
出だしの“「債権譲渡」は、弁済期前に債権を売り渡して代金を得ることや…”が、まさにファクタリングを指しています。
“この改正により、企業の皆様にとっては、債権を活用した資金調達が行いやすくなるというメリットがあります”
と経済産業省の資料に書かれていることからも、ファクタリングが安心して利用できる手法であることがわかります。
1-3. 無償ではなく有償で譲渡(売却)できる
「“売掛債権の譲渡”が合法なことはわかったけれど、有料で売っていいの?」
という疑問を抱いた方もいるかもしれません。
これも問題ありません。
「譲渡」とは、有償無償を問わずに権利を他者に移転させることです。
よって、有償で売掛債権を譲渡する(=売却する)ことに何ら違法性はありません。
ただし、無償で譲渡する場合には税務上の問題が生じる可能性がありますのでご注意ください。
2.ファクタリングで違法となった判例とは?
ここまでお読みいただくと、ファクタリング自体は政府に推進の姿勢が見られるほど法的にクリーンで、まったく違法性がないことがおわかりいただけたかと思います。
「それならば、なぜ違法のイメージがあるのか?」
といえば、ファクタリングの名前を使って貸金業を無登録で行っている違法業者の影響と考えられます。
2-1. 給与所得者向けの「給与ファクタリング」は貸金業とみなされる
近年問題となったのが「給与ファクタリング」です。
給与ファクタリングとは、会社に勤めて給与を得ている会社員向けに、給与所得者の給与を債権とみなし、給料日前よりも現金が得られると謳うサービスです。
給与ファクタリングは「給与債権の譲渡」と称していても実態は貸金業であるという見解が金融庁から出ています。
給与ファクタリングについて、これを業として行うものは貸金業に該当する旨を2020年3月に公表し、広く一般への注意喚起を行うとともに、無登録業者の広告等について、SNS事業者やプラットフォーマーに対し削除を要請した。
出典:金融庁
前述のとおり、合法の売掛債権のファクタリングは「債権譲渡契約」を締結して行う債権譲渡であり、「金銭消費貸借契約」を締結して行う金銭貸借ではありません。
ここが重要なポイントで、金銭消費貸借契約であれば、貸金業を登録がない業者が行うと貸金業法違反となります。
給与ファクタリングは、債権譲渡契約(ファクタリング契約)のように見せかけていても実態は貸金であるとみなされます。
よって、貸金業の登録がない業者が行うと違法になります。
※給与ファクタリングを貸金業とみなす金融庁の法的根拠を詳しく知りたい方は、2020年3月に公表された「金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手続(回答書)」をご覧いただくと、具体的に記載されています。
2-1-1.給与ファクタリングの判例(七福神)
実際に給与ファクタリングの違法性を認めた判例を見てみましょう。
2021年2月9日、「七福神」の名称で給与ファクタリングを展開していた株式会社ZERUTAに対し、5都道府県の男女9人が総額約430万円の返還を求めた訴訟で、東京地裁は違法と認め、全額返還するように命じました。
この判決では、前述の金融庁の見解と同じく、
・「契約の実質は、金銭消費貸借契約である」
・「給与ファクタリングの手法は貸金業にあたる」
と認定しています。
貸金業に必要な登録を受けずに無許可で貸金業を営んだことや、年利にして少なくとも260%を超える違法な金利を受け取ったことから「契約は無効」と判断されました。
参考:東京地方裁判所令和3年2月9日判決
2-2. 中小企業の経営者や個人事業主を狙ったヤミ金融業者も出ている
では、給与所得者ではなく、事業者向けのファクタリングサービスならすべて合法なのか?というと、そうとは断言できません。
中小企業の経営者や個人事業主を狙ったヤミ金融業者が出ているからです。
実際に確認されているのは、
「ファクタリングを装って、貸金登録のない業者(ヤミ金融業者)が、債権を担保とした違法な貸付けを行っている」
という偽装ファクタリングの事案です。
▼ 偽装ファクタリングとは?
高額な手数料を差し引いて売掛債権の買い取りを行うものの、買主(業者)は債権回収リスクを負わず、売掛金を回収できない場合は買い戻しを強いられます。
実態はヤミ金融による貸付けで、正規のファクタリングではありません。
参考:日本貸金業協会
偽装ファクタリングの可能性が高いケース
・償還請求権がついている(売掛金回収ができなかったときに支払義務がある)
・ 申込人の通帳・銀行印・キャッシュカードを預かる
・金銭消費貸借契約を締結し、代表者や家族に保証人になることを求める
・売買代金の受け取りが、銀行などからの送金ではなく手渡しでされる
・契約書の写し・領収書などの書類が渡されない
参考:日本貸金業協会
事業者向けの売掛債権をめぐる契約の場合、ファクタリング(債権譲渡)か、違法な貸付け(金銭貸借)の線引きが見極めにくい分、注意が必要です。
ファクタリング会社と誤解してヤミ金融業者と取引すれば、違法な高金利で返済請求額が雪だるま式に膨れあがり、脅迫まがいの厳しい取り立てに遭うリスクがあります。
では、違法業者をどう見極めればよいのでしょうか。